ZINEのお祭りに行ってきた(小笠原拓)
公開日:2025年7月9日


ムムム、気になる!! 

はじめに 

みなさんはZINE(ジン)というものをご存じだろうか。雑誌を意味するMAGAZINE(マガジン)の略なのだが、普通の雑誌とはこの場合、違っている。ここでいうZINEとは、個人や小グループが主体となり、少部数で発行している小規模出版物のことである。(リトルプレスとかマイクロパブリッシュとかいうこともある。)

ZINEは小規模出版なので、書かれている内容も、比較的身近なことやパーソナルなことなどが主題になることが多い。逆に言えば、それほど社会的なことでなくても、小規模でなら印刷し、流通させることが現在では可能になっているということかもしれない。

ある日、「トットリヒトハコ」(私の研究室で主催している一箱古本市)のために作っているインスタグラムを見ていると、「ART BOOK FRIENDS」というイベントが湯梨浜町で開催されるという情報が流れてきた。調べてみると、ZINEの作者やZINEを取り扱っている書店などが出店しているお祭りのようなイベントらしい。気になるので、車を走らせて行ってみることにした。

 

ZINEとの出会い 

ちなみに筆者がZINEを意識するようになったのは、数年前かと思う。(少なくともコロナ以前からは意識していた。)本屋さんに行って本を買うとなったとき、最近はアマゾンで本を買うことが増えたせいか、本屋さんでなかなか直接本を買うことが減ってしまっていたのが一つのきっかけであった。

そんなとき、ある独立系の本屋さんで、見慣れない本を扱っているのが目についた。それがZINEであった。それまでも存在は知っていたが、本屋さんに並んでいるというのは意外であった。おもわず、気になる表紙のものを手に取って買ってしまった。


これまでに買ったZINEの一部

 普通の本とは違い、ZINEとの出会いは一期一会である。本屋といっても限られた書店でしかお目にかかることはなく、同じZINEに出会うことも滅多にない。一般に流通している本なら、家に帰ってアマゾンで検索すれば一発で出てくるが、ZINEではそういう訳にはいかない。

そんな訳で、最近は、書店に行くとまず、ZINEが置いてあるかどうかを気にするようになった。そして運よくZINEが置いてあったなら、優先的に買い求めるようにしている。

 

ART BOOK FRIENDSとは 

ここで、筆者が訪れたART BOOK FRENDSについて詳しく書きたいが、残念ながら主催者と詳しく話をしたわけではないので、開催の経緯であるとか、なぜ湯梨浜町で行われることになったのかとか、そういった詳しいことを書くことはできない。

ART BOOK FRIENDSの公式インスタグラムを見ても、ZINEについての簡単な紹介が出ているくらいで、詳しい開催の経緯などは書かれていなかった。ただ鳥取市に拠点をもつTottoRISO部というグループが主催者であるということがわかるぐらいである。


イベント会場のさくら工芸品工房

 イベントが行われた会場は、「さくら工芸品工房」と呼ばれる場所で、古い小学校を改装して、イベントを行ったり、花屋や映画館として利用されているようだった。以前も何度か来たことはあるが、がっつりイベントに参加するのは初めてのことである。ただ、駐車場を見ると、結構車が止まっていたので、人はかなり集まっているようだ。早速、中に入ってみることにした。

 

イベント会場の様子

イベント会場は、ちょうど学校の教室一クラス分(実際に教室跡なのかもしれない)ぐらいのスペースに、大小20店舗ほどのブースが並んでいた。お客さんも結構来ていて、みな思い思いに店主さんと話したり、ZINEを物色したりしていた。


黒板に書かれていた当日のMAP

各ブースに置かれている商品は様々であり、かならずしもZINEを主要な商品としていないブースもあった。しかし全体としては、当然、ZINEが主要な商品を占めており、個性的な作品が所狭しと並んでいた。印刷会社に頼んで作ってもらったような作品もあれば、自分で製本まで行ったのではないかと思われるような作品もあり、内容だけでなく、見た目も含めてバラエティに富んだ作品が並んでいる。 

最初は、会場の熱気に少し押されて、どこから見ればよいか、ちょっと不安になったが、会場はそれほど広くないので、1~2周何となく回っていると、会場の雰囲気にも慣れてきた。一応、受付で写真撮影の許可を取ったけれども、やはりそれぞれのブースで写真を撮るためには、店主の方に許可を取った方がいいだろう。ちょっと緊張するが、何事も挑戦である。店主さんと話をしてみることにした。 

 

店主さんと話をする

最初に話したのは、鳥取県西部を中心に活躍しているしのだまなこさんという方だった。猫好きなようで、猫と自身の朝の様子を描いたマンガを出店していた。あと、おいしそうなお弁当のイラストをまとめたZINEも出品されていて、缶バッジも売られていた。缶バッジには、先ほどのおいしそうなお弁当のイラストが描かれており、思わず買ってしまった。


しのださんのブース

しのださんのお隣にいたのは、島根県在住のよしのみずきさんという方だった。出雲弁をまとめた方言集が印象的でこちらも思わず買ってしまった。その他にも「わたしのみっともない子ちゃん」という小さなZINEが置かれていた。「自分のダメな部分を出していけるといいなと思って書いてみました。」とおっしゃっていて、おもしろい発想だなと感心した。


よしのさんのブース

 イベントには、「トットリヒトハコ」の時や「山陰秋の本まつり」の時にお世話になった小吉文庫さんも出店していた。小吉文庫さんは、いつもディスプレイに工夫が凝らされていて、感心させられることが多い。今年の秋も「トットリヒトハコ」を行う予定なので、是非来てくださいとお誘いしておいた。


小吉文庫さんのブース 

次に、主催者であるTottoRISO部の方ともお話しすることが出来た。TottoRISO部のブースは全体の中でも大き目のブースになっており、バラエティ豊かなラインナップとなっていた。ひときわ目を引いたのは、「Circle」という共同ZINEで、色んな人が思い思いにページを作り、それをホッチキス止めして47部印刷するというプロジェクトだった。現在は第2号の参加者を募集しているそうだ。


tottoRISO部さんのブース

 食べ物のブローチを扱っている「ohako」というブースの店主さんとも少しお話しした。もともとはミニチュアの製作をされていたそうであるが、そこから発展して、かわいいブローチを作るようになったそうだ。ミニチュア作品も展示されていて、写真を撮らせてもらったが、写真だけ見ると実物かと思わせるような仕上がりで、びっくりさせられた。


Ohakoさんのブース


展示してあったミニチュア。本物みたい!!

最後に話したのは、かつて鳥取市にあった定有堂書店の店主が現在も続けている読書会のメンバーが出店している「らくだのこぶのビオトープ」というブースだった。私が話を聞いたときは、男性と女性の2人が店番をしていたが、二人とも中高一貫校の先生ということだった。学生の頃に読んだ『構造と力』(浅田彰)という哲学書を読むためのレジュメがZINEになっていて、懐かしくまた興味深かった。


らくだのこぶのビオトープさんのブース


購入したZINEの紹介

先程、少し書いたが、購入したZINEについて、せっかくなので少し紹介してみたい。まず、先程も紹介したよしのみずきさんのブースで買った出雲弁の方言集である。ユニークなキャラクターとともに様々な出雲弁が紹介されており、QRコードを読み込むと音声も聞けるそうである。

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『出雲でたんびにきくことば』 イラストがかわいい。

tottoRISO部さんのブースでは、『tottori 本棚を探して旅にでる vol.1』というパンフレット型のZINEと『自己肯定感あげてこ日記』という紐で綴られたZINEの2冊を購入した。『tottori 本棚を探して旅にでる vol.1』の方は、筆者の知っている本屋やカフェなどが数多く紹介されており、筆者が担当している「地域調査プロジェクト」という授業で学生に見せたいなと思い、購入した。『自己肯定感あげてこ日記』はタイトルに惹かれたのと、パラパラとめくりながら「あれ、自分もZINE作れるんじゃね。」と思わせてくれたので購入することにした。


tottoRISO部さんで買ったZINE

 最後に紹介するのは、「らくだのこぶのビオトープ」で購入した『とっとり、ひとり』というエッセイ集である。店番をしていた女性が書いたということで、興味を惹かれ買うことにした。というのも、この店番をしていた女性は英語の先生で、来年からイギリスへ留学するというのを聞いて、すごいなと思ったからである。学校をやめて留学するそうで、勇気があるなと思い、その勇気の秘密を知りたいと思い、エッセイを買うことにした。後で、じっくり読んでみたいと思う。


らくだのこぶのビオトープさんで買ったZINE 


おわりに

イベントは、ちょっと一箱古本市とも似たような雰囲気があって、店主さんたちも話しやすく、あたたかい気持ちにさせられた。最初は若干緊張したが、いろんな店主さんたちと話すことが出来て、自分の知らない世界をほんの少しずつ見ることができたようで、とても充実した気持ちになった。 

イベント会場には1時間程度いたと思うのだが、出た後になって、「もう少し、いても良かったかな。」とか「あと何人か話をしても良かったかな」と思ったりもしたけど、少し興奮気味でもあったし、精神的な体力(?)を考えても、丁度よい滞在時間だったかなとも思う。

あと、話をした店主さんたちには、「トットリヒトハコ」のブログやインスタグラム、そして当サイトのことについても宣伝をしておいたので(笑)、この記事も読んでもらえるといいなと思う。


購入した缶バッジ。美味しそうなイラスト


 © 小笠原 拓 2015