夏休み特別企画【エッセイ・私と地域②】
「好き」の原点(ivy)
公開日:2025年8月10日

自己紹介でよく困っていたのは、好きな食べ物は何か、という質問である。

小さいころ、苦手な食べ物はいっぱいあり、好きな食べ物は?と聞かれると全然浮かんでこなかったことが記憶に残っている。なんでこの項目あるんだ、と毎回思っていた。むしろ苦手な食べ物を聞いてほしかったぐらいであった。

そんな私も流石に中学高校まで来たら、自己紹介の好きな食べ物コーナーに、ある種の諦めをもって向き合っていた。基本的にお店で注文するものは毎回同じになることが多いからじゃあそれ言うか、で乗り切った。○○行ったら麻婆豆腐しか頼まないし麻婆豆腐にしよ、とか。おいしいし、現在でも大学の学食でたまに食べたりするのだが、なんかこう、ビビっとくる運命的な出会いというものがなかったな、と今となっては思う。

私にとっての運命的な出会いは、まさしくカレーである。

鳥取駅前の商店街内に、そのカレー屋さん「cafe木の香り」はある。普段から新しい場所に行くとなっても地図で調べる、計画を立てるなどをしない。この時も、今まで「商店街」に馴染みがなく少しの興味から練り歩いていて、そんな偶然でこのお店に巡り合えたことはひたすらに運がいい。

レトロな雰囲気が漂う内観で、席数は少ない。そのためお昼時に行くとほぼ満席状態のときが多く、これを読んでいる方もぜひ食べに行ってほしいが時間帯には気をつけてほしい。ちなみに営業時間は平日は7:30~17:00、土日祝日は9:00~17:00、定休日は月曜日である。

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さてこのお店、もちろんカレー自体もすこぶるおいしいのだが。この機会を借りてどんな魅力を自分が感じているのかを振り返ってみると、新たな発見があった。それは、お店の中にちりばめられた癖の強さである。

まずはメニュー。このお店では、薬膳カレーが食べられる。おいしさを楽しむだけでなく、健康にも気遣われて作られたカレーは愛情たっぷりで元気になれる。また、スイーツはすべて「カレー○○(カレーシフォンケーキやカレーアイスクリームなんてものも)」であり、カレーへのこだわりがメニュー全面に表れているのが特徴だ。

次にスパイス。テーブル上にはたくさんのスパイスが置かれており、その数は片手で収まらない。しかも、面白いのはスパイスの名前だ。「激辛」「二日酔いに効く」「風邪っぽい」は理解できるが、「金運」「恋愛」などはスパイスの効果として予想外すぎて二度見した。ちなみに私は味に詳しくないので、正直「激辛」以外は差異がわからない。辛いもの食べたい、お金ほしい、ということで私は基本「激辛」「金運」のスパイスをかけている。カレー願掛け。

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そして、何よりも印象深いのは親しみやすい雰囲気のある人たちとのコミュニケーションだ。一番最初にお店に行ったのは、去年の五月ごろ。対応してくれた店員さんは気さくなおばあちゃんで、見ず知らずの私に「鳥取での暮らしを楽しんで!ここおすすめだよ!」などいろいろ教えてくれた。店員さんと世間話をする、というのが私にとってはとても新鮮で、今までにない経験だった。料理が来るのを待っているときも、

「ごちそうさまでした」

「おいしかったです」

「いってらっしゃい」 

という声掛けをよく聞く。すると、心がほっこりとするのだ。実家では何気なく行われていたやり取り。赤の他人であれどそこに温かみがあふれていたものだと、気づくことができた。鳥取に来たからこそ出会い、日常の小さな幸せを意識できていると知れたことが、自分の「好き」の原点に立ち返ってみて一番の喜びである。


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 © 小笠原 拓 2015