湯梨浜町の秘境、今滝&不動滝(大久保拓人)
公開日:2016年10月10日


「秘境」へと続く道…

鳥取の夏は暑い!

香川出身の私にとって、鳥取の夏はとにかく暑い。で、今年も夏休み中は灼熱の暑さにさらされ続けた。

アスファルトは鉄板の如く熱を帯び、大気は大鍋に入れられた水のように、グラグラ煮られている。日中の景色は蜃気楼が起っているのではないかと疑うほどに揺れている。(個人の感想です)

21世紀の現代に、人々はまさに鳥取という釜の中で、石川五右衛門のような状態に追い込まれるわけである。(繰り返しますが個人の感想です)

大学から家に戻り、ドアを開ければ強烈な熱気が主人を迎える。一日家を空けると、室温はこの通りである。


33.9度(右下の数字)。夏の我が家は脅威と驚異に満ちている…!

私はかつて、自宅で熱中症になった事例を聞いて、「そんなバカなことがあるものか」と思っていた。しかし、自宅の衝撃の室温を体感し、私は確信した。「この家は、いつでも私の棺になろうとしている。主人である私をこの棺に納めようとしているのだ。」と。

冷房を発動させずに自宅にいると、汗は結露のように吹き出し、一時間でも水分を口にしなければ、強烈な頭痛に襲われる。まさに熱中症の症状が現れるわけである。

私はひたすらに、冷涼と癒しを求めた。

 

涼しさを求めて…

「涼しい場所はどこか。」その見当はすでについていた。

以前私は雨滝(詳しくはコチラコチラをクリック)行ったことがあるのだが、その涼しさは同じ県内であることを疑うほどであった。

そのうえ、水音や緑に囲まれた環境は人に癒しを与える。しかし、癒しを与える一方で、カゲロウなんかが、揺れる水面や濡れた石の上で命がけの羽化をしているところを目撃したときなどは、生命の神秘という、大宇宙に呑まれてしまいそうな摩訶不思議な感覚も与えてくる。

滝に行こうと私は決めた。しかし雨滝ではつまらない。以前行ったことがある場所には、たしかに行くたびに新発見はあるものの、やはり見栄えに新鮮味は失われるものだ。

新たな滝を、新たな滝を求めたのだ。

 

其の壱 今滝

湯梨浜町に気になる滝があったのを思い出した。それは、今滝である。いつも倉吉に向かう途中に案内標識は目にするものの、実際に足を踏み入れたことはなかった。

これは行ってみなければならない。行ってみないと私の好奇心が収まらない。

というわけで今滝に向かう。


今滝の入り口。木造の鳥居が神秘的である。

一見弱弱しく見える木造の鳥居であるが、その弱弱しさが逆に神秘を感じさせる。少々暗めに見えるあたりが、森の入り口であり、緑の深淵の始まりであることを物語っている。奥から吹き出る風は冷たさを帯びていた。これは期待ができそうである。


滝へと続く道。なかなか綺麗に整備されている。

整備されていない土の地面を歩くことになると思っていたが、意外と綺麗に整備されていた。また、もっと鬱蒼とした暗い道かと思っていたが、陽は緑の帳を超えており、十分に明るい。この日、私はサンダルであったため、少々足元が心配であったのだが、どうやら杞憂に過ぎなかったようだ。

 今滝。思ったよりも高いところから水が落ちてくる。

しばらく歩くと今滝についた。壮麗である。水滴は一つ一つが躍動し、岩にぶつかり砕け散り、さらに小さな光となりつつ、滝つぼへ落ちてゆく。風は滝から零れたミストを運ぶ。涼しさを全身で感じることができた。(これは…酷熱の自宅に帰りたくなくなる!)

また、この今滝は人々に親しまれているようである。滝つぼが浅いことと、広いこともあって、子ども達が滝つぼで水遊びをしていた。子ども達にとって安全な遊び場となっているのだろう。今滝の持つ神秘性は、人を寄せ付けぬ威圧ではなく、人を寄せ付ける招来であると感じた。

 

其の弐 不動滝

今滝のすぐ近くに、不動滝という滝もあるらしい。せっかくここまで来たのだからと、不動滝にも寄ってみることにした。


不動滝の入口。またもや鳥居が物憂げに佇んでいる。

これまた自然を感じる場所である。若干傾いているように見える鳥居が、歴史を訴えてくるようだ。いつからこの鳥居が、不動滝の入り口として佇んでいるのかは分からないが、おそらく数々の風雨と陽光にさらされてきたことだろう。

 不動滝。意外とすぐに着いた。

入口の雰囲気から、山を登る必要があるのではないかと思っていたのだが、入口からの距離はほんのわずかであった。今滝と比べると、小柄な印象を受ける。高さも今滝ほどはない。そのせいか、勢いと着替えさえあれば、滝に打たれることも可能なように思える。

ここで滝に打たれれば、私の精神は研磨され、精錬されそうなものである。私には滝に打たれるだけの勢いはあった。勢いはあったのだが…着替えは無かった…。いや、乾かせば、とも考えたが、ずぶ濡れの服を身につけて生きるのは心地悪い。むしろ心が荒みそうだ。

ここは打たれることなく退散。うーん、無念…。

しかしよく考えてみれば、修行していい場所なのかどうかはよく分からない。鳥取砂丘の条例のようなもの(砂を持ち帰ること、ダメなのですよ。)があっても困る。滝に打たれた者は罰金○円とか…。これは下調べが必要だ。


まとめ

今滝も不動滝も、立派な滝であった。

道には案内標識がついており、行きやすい。

また、道中の田園風景には癒される。この二つの滝は、滝自身も見る者を楽しませてくれるが、道中の風景もまた、見る者を楽しませてくれる。暑さに疲れた人、日常生活に疲れた人には、大きな癒しと快適さをもたらしてくれることだろう。

10月に入りかなり涼しくはなったが、紅葉の季節の滝もまた神秘的であると思うので、興味を持った方は是非訪れてみて欲しい。

滝は神秘と冷涼を以て、我々を迎え入れてくれることだろう。


 © 小笠原 拓 2015