湖山の今井書店には、近くにメディア館という建物があった。鳥取大学に進学して一人暮らしを始めたわたしは何が売っているのだろうと不思議に思った。ただの本屋ならわざわざメディア館という名前は付けないだろうし本屋にたまにあるCD売り場を拡張でもしたのだろうか。新天地に来たばかりで周りに何があるかまだ把握できていなかったわたしは興味本位でそのドアを開けてみた。
受験の影響もあり離れていたが学生時代ポケカやデュエマをしていたわたしは驚いた。まさか鳥大のこんなに近くにカードショップがあったとは。本屋の今井書店より小さい建物だなと思っていたが入ってみると思っていたよりかなり広かった。デュエルスペースは白い机が並んでいたが机と机は少し距離があり広々とした印象を受けた。その奥にある三十円均一のストレージコーナーはカードゲームごとにきれいに分けられており一つの種類でもかなりの量のカードがそこにはあった。金欠カードゲーマーにとって安いカードが大量にあるのはとてもありがたい。
今まで行ったことのあるカードショップは壁にポスターがびっしりと張られていたりギラギラな装飾が施されていたりと情報が店内に詰め込まれ広いと感じられるものではなかったがここは全体に無駄にものが置かれていないため広く感じた。まるでその中だけ異世界のようだった。
近くにこんな場所があったなんてと最高の気分でショーケースのカードを見た。カードショップらしく様々なカードがそこにはあったがひときわ目を引くのは自分がやっていなかった時期に出たカードだ。もともと持っていたカードに新しいカードを加えてデッキを作り戦う。自分のデッキをどう作ろうかと考えながらカードを見る感覚は久しぶりだった。
それからメディア館で行われているポケカの大会に毎週参加した。大会といってもガチガチに競技という感じではなく交流会みたいなものだ。トーナメント表に従って机ごとにバトルが繰り広げられる。終わったら相手の人とこの時の手札はどうだったとか次のパックのカードの話なんかをした。
カードゲームというのは相手がいなければできない。そのため大会などの機会を設けてくれる場所が近くにあるというのはとてもありがたかった。最初は知り合いもほぼいなかったが、行くたびに顔を合わせるお兄さんや先輩と仲良くなった。カードショップとはこのように同じゲームをしている者同士をつなげる場所でもある。
それだけでなく大学の友達とデュエマもした。その際近くで集まれるからとメディア館のデュエルスペースをよく使った。広いため四~五人で行っても余裕があり、席が空いていない時は何かの大会をしているときくらいだったためとても助かった。高校生の時は周りにカードゲームをしている奴がほとんどいなかったため友達とカードゲームをできるのはとても楽しかった。
少なくとも大学生活中はずっとお世話になるなと思っていたが意外にもそうはならなかった。メディア館は去年の十二月で閉店した。閉店一か月前にそのことを知ったときは信じられなかった。まだ通い始めて一年も経っていないがいつも行っていたところがなくなるとは思っていなかった。
閉店の日は多くの人がメディア館にいた。あんなに広く感じていたお店がその日はいつもより狭く感じた。その日はわたしも友達と開店から閉店時間になるまでそこでカードゲームを楽しんだ。今日は一日中楽しむぞと朝からいたのに閉店の時間まではあっという間だった。他にも大勢のプレイヤーが最後まで残っていたためまだまだ時間はあるものだと思っていたから外がもう暗かったことに驚いた。まだカードゲームをしていたかったが終わりの時間は訪れる。閉店後、友達と近くの中華料理屋に入ったところでメディア館に傘を忘れたことに気がついた。戻ったらまだ店の前にはさっきまでカードゲームをしていた人がたむろしていた。
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