はじめに
毎日のように通っているスーパーに、あるポスターが貼ってあった。鳥取市の青谷町にある「あおや和紙工房」で行われる折り紙の展示会のものだった。よくよく読んでみると、メディアでも活躍している「折り紙王子」こと有澤悠河氏の展覧会だという。7/5からの開催で、開催日には本人のギャラリートークもあるとのこと。ちょっと気になったので、開催日に行ってくることにした。
あおや和紙工房とは
鳥取市は因州和紙と呼ばれる和紙の産地として全国的にも知られている。あおや和紙工房は、そのような因州和紙の伝統について伝える施設であり、常設展のほかに、年に数度の企画展が行われている。筆者は、以前にも訪れたことがあったが、今回は数年ぶりに訪問した。JR青谷駅から6kmほど離れているため、車がないと、ちょっと行きにくい場所にある。
あおや和紙工房
とはいえ車さえあれば、鳥取大学からは車で30分ほどで行くことができる。但し、これは鳥取あるあるなのだが、山陰道を山側に曲がると一気に山深い景色が続くので、たった30分とはいえ、かなり遠くにやってきた感じがする。
とりあえず食事
実はお昼前に行ったので(ギャラリートークが13時30分からだったので、それにタイミングを合わせて行ったのだ)、かなりお腹が空いていた。まわりには何もないような場所だが、ちゃんと併設のカフェがあるのを知っていたので、そこでまずは日替わりランチを注文して、腹ごしらえをすることにした。
日替わりランチ1250円(食後のコーヒー付き)
カフェは2人の女性で切り盛りされているようで、お客さんはそれほど多くなかったが、かなり忙しそうだった。とはいえ、ランチは味も量も満足できるものであり(酒粕を使ったスープが印象的だった)、ゆったりと腹ごしらえをして、展覧会に向かう準備をすることが出来た。
作品の精密さに圧倒される
美味しいランチを頂いて、お腹も満足したので、早速作品を見るために工房の中に入ることにした。入場料(企画展の観覧料)は300円と驚くほど安いが、実際に作品を見てから、この安さに改めて驚くことになる。
見たことがない折り鶴
最初の作品が、鶴だったのだが、正直いきなりビックリしてしまった。鶴といえば、折り紙の定番だが、そんな鶴とは似ても似つかない精巧な鶴がそこにはあった。こんなものが折り紙で作れるとは、実際に見たとしても、にわかには信じがたいものであった。
クワガタ!
忍者(鎖鎌も含めて1枚の紙で折られている)!!
ペガサス!!!
実際、ほぼ全ての作品について「へ~、ほ~」とよく分からない反応をしながら、驚きのあまり写真を撮りまくるということを繰り返していた。他にもたくさんの写真があるのだが、それは後半に取っておくとして、写真を撮りまくっていると、一人の青年から声をかけられた。
ご本人登場!
最初は、「誰かな?」と思っていたが、よく見ると作者である有澤悠河さんご本人ではないか。思わず「ぎょえ~」と叫びそうな気持ちをぐっと抑えて、「これって本当に1枚の紙で作っているんですか?」と質問した。
「そうです。1枚の紙を折って作ってます」と有澤さんは笑顔で答えてくれた。「ハサミで切ったりすることもなく?」と聞くと、「そうですね。」とのこと。改めてご本人から事実を聞くことができて、実は相当興奮してしまっていた。
有澤さんは、実は折り紙作家であるとともに、紙漉き職人でもあり、現在は岐阜県の美濃で職人として働いておられるという。折り紙が好きすぎて、折り紙自体を自分で作りたくなり、高校を卒業して和紙職人に弟子入りしたそうだ。よって基本的に有澤さんの作品は、自身が漉いた紙で作られている。
この写真を先に見ていたから、何とか本人だと分かった。
展覧会に掲げられていた紹介文を見ると、まだ28歳。実際お会いした感じも、普段接している学生とほとんど変わりがないようなごく普通の若者といった感じであった。天才というものを(ご自身では「天才肌ではない」と仰っていたが)目の当たりにして、何か不思議な気持ちになってしまった。
ギャラリートークでは創作の秘密を公開
13時半からは、予定通り有澤さんのギャラリートークが行われた。そこでは各作品の制作した時期や意図などが語られ、非常に興味深く聞かせてもらうことができた。
有澤さんの中高生時代の作品。すでにこのクオリティである。
ワークショップなどでお客さんに折ってもらうことを意図した作品。表情がカワイイ。
楽器シリーズ。有澤さんは音楽好きでもあり、クラリネットを演奏しているそうである。
なかでも興味深かったのは、一つの作品を作るまでの流れを説明してくれた場面である。折り紙を折りながら、何度も試作を繰り返し、少しずつ、理想の形に近づけていくという。その後、展開図を書き、その展開図に沿って折った後、最後に形を整えていくというプロセスを経るそうである。
ペガサスの試作の工程。
あと、こちらも興味深かったのが、和紙に対する有澤さんの考えであった。有澤さんの作品作りにおいては、紙を何度も折ったり開いたりを繰り返すため、普通の紙では作品になる前に紙がボロボロになってしまうという。また、何枚も重ねて折る場合もあり、これも普通の紙では厚くなりすぎて折ることができないそうである。有澤さんの精巧な作品は、日本の和紙の技術があってのものということになる。
この作品は1枚の紙を5カ月間(!)、折ったり開いたりを繰り返してできたそうである。
これほどの作品を間近にみることができ(ここで紹介した作品は、全体のほんの一部である)、創作の秘密までお話を聞くこともでき、しかも本人と直接話をすることまでできて300円って、どれだけ太っ腹なんだよと、見終わった時にはちょっと憤り(?)すら感じてしまったぐらいである。ふとしたきっかけではあったが、見に行って本当に良かったと思える展覧会だった。
おわりに
本人に会えたり、ギャラリートークを聞くことが出来たりしたのは、初日に行ったからこそではあったが、この展覧会は8月31日までやっているそうなので、機会があれば、是非行ってみてほしいと思う。正直、鳥取でたった300円を払っただけで見てしまっていいものか、罪悪感すら感じたぐらいである。
本人と話したときに思わず「海外で展示はしないんですか?」と聞いてしまったが(まだ海外での展示は行われていないそうである)、いずれ海外にも知られるようになって(というかもう知られているかもしれない)とても簡単に見ることができなくなってしまうかもしれないので、今のうちに是非、ご自身の目で見てみてほしい。