松崎徘徊(田中心璃)
公開日:2022年11月29日


渋い駅舎も絵になる!

お気に入りの町 松崎

鳥取県出身の私が、「鳥取県でおすすめの場所は?」と聞かれたら、松崎と答えるだろう。

1年ほど前に高校生時代からの友人と訪れ、すっかりお気に入りとなり、何度か足を運んでいる。尾道でも一緒に古本屋へ行った本好きの友人である。その友人がこの夏帰省するとのことで、再び松崎にお邪魔することになった。魅力的なスポットは多くあるのだが、今回は「汽水空港」、「HAKUSEN」を目的として松崎へと向かった。本当は「jig theater」という映画館に行きたかったのだが、この日は営業していなかったため、この2つの店に狙いを定めた。


本屋 汽水空港

友人は米子から、私は鳥取から松崎に汽車で向かい、30分ほど時差があったがなんとか合流した。この山陰本線の不便さも鳥取の魅力なのかもしれない。(これ以上の減便はさすがに勘弁してほしいところだが…)まず向かったのは汽水空港である。汽水空港は東郷湖に面した古い小屋を改装して作られた小さな本屋である。これまでも何度か訪れたことがある、私たちの最もお気に入りの本屋と言っても過言ではない。

しばらく歩き、汽水空港に無事着陸!何度通っても、小屋が景色に馴染みすぎて通り過ぎてしまいそうになる。扉を開けると、心地よい音楽と本のにおいが私たちをむかえてくれる。新しい本、古い本、どちらもそろっており、見て回るだけで時間が経つのを忘れてしまう。


知る人ぞ知る名店、汽水空港!

汽水空港には特に、zineがよくそろっている。zineとは個人が自由に制作した同人誌のような冊子のことである。汽水空港に来てその場で気に入ったzineを一冊買うことが私の中でお決まりになっていた。この度もまた一冊購入させてもらった。

また、ここに来て絶対に購入すると決めていた本があった。『街を見る方法』である。私が所属する地域学部の先生方が関わっている本であり、興味があったのだが、購入が少し遅れてしまった。本はどこで買っても変わらないと分かってはいるものの、汽水空港で買ってみせる!という謎の意志があったからである。入り口近くに面陳列されていたのですぐに分かった。


普段授業を受けている先生方が執筆した本

ホクホクしながら友人とレジに向かった。すると、店主の森さんはお客さんとおしゃべりで盛り上がっていた。(デジャヴ?)なんとなくお会計をしてもらいにくかったので2人でうろうろしていた。しかしその時、森さんが話しかけてくださった。

「ぶどう、お好きですか?」

どうやら話し相手はぶどう農園の方だったらしい。そのぶどう農園の方が不揃いのピオーネをお店に持ってきてたようで、私たちにおすそ分けをしてくれるようだった。ぶどう農園の方もどうぞとニコニコしている。私たちは目を見合わせた。飛び入りのその場にたまたま居合わせただけの自分たちがピオーネを、それもひと房もいただいていいのだろうか。しかし、ツヤツヤと輝くぶどうを前に、悩むのは一瞬だった。「ありがとうございます!!!」私たちはありがたくいただくことにした。

本を購入し、ぶどうを片手に、偶然に感謝しながら私たちは汽水空港を後にした。

 

HAKUSENで読書♪ …のはずが⁉

そのまま歩いて東郷湖のほとりにあるカフェ、ハクセンに向かった。当初の予定ではそこでコーヒーを飲みながら購入した本を楽しむ計画であった。しかし、私たちの手にはぶどうがある。カフェで食べるわけにはいかないが、私たちはこの子をなんとか2人でいただきたいのだ。

コーヒーは飲みたかったので入店する。美味しそうなケーキもあったので一緒に注文し、席に着いた。ハクセンも以前友人と伺ったことがあるが、明るくてシンプルでおしゃれな店である。この日は曇っていたが、窓からの景色も開けていて素敵だった。


美味しいコーヒーとケーキで幸せになろう

先ほど手に入れた本を読みながら、お茶をし、おしゃべりをしばらく楽しんでいた。今回は名古屋渋ビル研究会が発行・編集を手掛けている『鳥取渋ビル手帖』を購入した。今度はこの手帖にしたがって鳥取巡りしたいねなどと話した。

しかし、なんとなく落ち着かない。2人ともそわそわしている。それもそのはず、そばに置かれた紙袋からはピオーネがこちらを見ているのだ。一粒一粒が早く口に入れて!食べごろだよ!と私たちを見つめている気がしてならない。正直、今すぐにでも食べたかった。友人も同じ気持ちだったのだろう。せっかくのステキなカフェだが、私たちは店を出ることにした。


渋ビル巡りは次回のお楽しみに

湖畔で味わうぶどう

店を出たものの、どこでぶどうを食べればいいのか分からなかった。ぶどう農園の方は、帰りの車で2人で食べてねと言ってくれたが、私たちはそれぞれ逆方向から汽車で松崎に来たのである。かといって半分に分けてお互いの家で別々に食べるのも嫌だった。

ちょっと歩いてみると、公園のような場所があったので、悩んだ結果その東郷湖畔公園のベンチで食べることにした。湖畔公園には謎のモニュメントと、温泉卵作り場(?)があった。 


実際に温泉卵を作った人はいるのだろうか

不思議な雰囲気に驚きながらもベンチに座り、お待ちかねのぶどうを取り出す。ぶどう農園の方は不揃い品だと言っていたが、どこが悪いのか全く分からないほど、ぶどうはキラキラしており、紫色の宝石のようだった。早速2人で口に入れた。美味しかった。友人と無言で握手をした。ぶどう農園の方、森さん、ありがとうございます。偶然の出会いに感謝します。しばらくすると雨が降ってきたが、ここを離れても行く場所がないので、持っていた日傘で相合傘をしてぶどうを食べ続けた。


立派なピオーネ!

傍から見たら私たちはどのように見えているのだろう。雨の中、小さな傘に入りながら、東郷湖を眺め、ぶどうをしみじみと食べている2人の大学生。まわりには誰もいなかったが、想像して少しおかしくなった。おそらく、この先の人生で二度と同じ経験をすることはないだろう。しばらくゆっくりと時間を過ごした。


おかしくてついたくさん写真を撮ってしまう

あのタイミングであの場所を訪れたからこそできた経験である。偶然とは恐ろしい。鳥取県内で忘れられない思い出を作ることができた。想定外のことが起きるのではと次のお出かけに期待をしてしまう2人であった。


お邪魔しました!

 © 小笠原 拓 2015