一箱古本市の何が楽しかったのか?(小笠原拓)
公開日:2018年6月2日


Books 腸感冒、開店です!

はじめに

私が所属している鳥取大学地域学部では、「地域調査実習(現在は地域調査プロジェクトと改称)」という授業があって、昨年、私も教員の一人として担当することになった。

色々な課題を出したりして、学生には様々な作業をしてもらったのだが(「実習」なので講義以外の作業が多いのだ)、その延長線上で「一箱古本市」というイベントを企画することになった。

一箱古本市とは、プロアマ問わない「古本屋さんごっこ」である。事前に主催者に申し込みさえすれば、誰でも古本屋さん気分を味わうことができる。せっかく学生がイベントを企画したので、自分は一日店主として参加することにした。

いざ、やってみたら、メチャメチャ楽しかったので、その理由について考えてみたい。

 

《楽しい理由①》本棚を作るのが楽しい

実は、最近、引越しをしたのだが、引っ越し先がちょっと狭くなったので、どうしても本を処分しなければいけなかった。そんなこともあって、売る本は結構あり、そこから「一箱」を選抜することにした。

前の日にどれを売るか色々考えながら用意したのだが、値付けや本のバリエーション、書棚全体の雰囲気を考えていくと結構楽しくなってきた。


スリップを作って値段を書き込む。「面倒かな」と思ってたが、意外と楽しい

最初は要らない本を売るしかないと考えていたが、だんだんそういう本は外すような気分になってきた。店主マニュアルに基づいて「スリップ」を挟んでいったのだが、思い入れに基づいて値段を書き込んでいったりして、これも結構楽しかった。

今まで「本を買う」ために選ぶことはあったが、「本を売る」ための棚を考えるというのは、何だか自分の頭の中を晒しているようで、ちょっと恥ずかしくもある。でも、その妙な「恥ずかしさ」と「緊張感」が妙に気分をハイにしていった。小学校の時の遠足の前の日のような感じかもしれない。


オマケ用の缶バッジも作った。(前の記事も見てもらえると嬉しい。)


《楽しい理由②》本を買ってもらう過程が楽しい

そして、イベント当日。連日暑い日が続いていたが、その日は少し暑さも和らぎ、ホッと一安心。とはいえ、実際にお客さんが来てくれるのかどうか、本が売れるのかどうか、やはりちょっと緊張した。


学生が作った受付ブース。こういう「手作り感」は個人的に好き。

しかし、蓋を開けてみると、こちらの予想をはるかに超えて多くのお客さんが来て、本もメチャメチャ売れた。金額を書くといやらしいので書かないが、ブックオフなんかで売るよりはずっと効率的だった。


当日の様子、場所が広いので人が少ない印象もあるが、結構、入れ替わり立ち替わりお客さんが来た。

しかも、この古本市のいいところは、本を買ってもらうたびに、色んなコミュニケーションがあるところだ。特にコメントがなくても、手に取ってもらったりしただけで、褒めてもらったような気分になる。

ある店主の方は「一日中、『お前の趣味はいい』と言われ続けているような感じがして、自己肯定感が上がりまくる」と喜んでいた。正にその通りだと思った。

 
「自己肯定感が上がりまくる」と言ってた店主さんの店。コーヒーの雑誌がカッコよくて思わず買った。


《楽しい理由③》色んな人と知り合いになるのが楽しい

せっかくなので、少しお客さんが減ったのを見計らって、色んな店を見に行った。それぞれ本当に個性的な店があって、見ているだけで楽しくなった。


県外から来たベテラン店主さんの店、「闇鍋文庫」など色んな工夫がなされてて、見てるだけで楽しい。

最初は、地元鳥取の方が集まるものかと思っていたのだが、学生がツイッター経由で募集をかけたせいか、お隣の兵庫県や遠くは長野県からやってこられたベテラン店主の方もいて、いろいろな経験を聞くことができた。


こちらもベテラン店主さんの店、鳥取の「定有堂書店」の店主さんが書いた本が置いてある。
(ただし、大事な本なので売ることはできないとのこと。)

ベテラン店主さんたちは、鳥取向けの本を用意されたり、「白バラコーヒー」(鳥取のソウルドリンク!)のTシャツを着て来られたり、それぞれ鳥取への思いを表現されていて、それもまた凄く嬉しく感じた。


こちらは長野県から来られたベテラン店主さんの店。これまでの経験談など色々教えてもらった。

実は、家にある本を減らしたいという下心があったので、なるべく本は買うまいと思っていたが、色んな人と話しながら、つい何冊かの本を買ってしまった。でも買ってよかった。多分、本を買ったというよりも、思い出を残したかったんだと思う。

 

《楽しい理由④》「本好き」の存在を実感できるのが楽しい

先にも書いたように、実は開催前は、「やっぱり人が来なかったらどうしよう」的なことも考えていたこともあり、身近な学生たちは、遊びに来てくれるようお願いしていた。

その甲斐あってか、結構な学生たちが遊びに来てくれていたのだが、嬉しかったのは、その学生たちが色んなところで本を手に取ったり、買ったりしていた姿を見られたことだ。


こちらは地元の児童書専門の古本屋さんが出してくれた店。本もいいけど、看板も素敵。

それどころか、「早く帰ってこの本読みたいです〜!」と、わざわざ私のところまで報告に来る学生や、店番をしている私の後ろで芝生の上に座って脇目もふらず本を読んでいる学生の姿には、ちょっと驚かされた。

いつもは、授業の中で「最近読んだ本を3冊あげよ」なんて質問されても、「レポートの課題の時ぐらいしか読みませんよ〜」なんて反応が結構あってガッカリするのだが、何の事はない、読書が楽しいと感じられる雰囲気さえあれば、学生たちも本を楽しそうに本を読むのである。


普段は鳥取市内で児童文庫という取り組みをされているPipi&Lotta(ピピロッタ)さんの店。
缶バッジを交換してもらいました。

実は、当日は自分の店のことで一生懸命で、ほとんど写真を撮れなかった(という訳で本日の記事の写真は、ほとんどが学生から提供して貰ったものです)のだが、やっぱり色んな本の店が集まると独特の雰囲気になる。普段は本を読まない人でも、手に取ってみたくなるものなのかもしれない。


こちらは普段、高校の先生をされている方が作ったというお店。初めてとは思えない充実ぶり。(ちなみにご主人も出店していて、そこではミニ数学教室が大盛況だった。)

いずれにせよ、単独行動に走りがちな一人の「本好き」(私のことです!)にとっては、色々な形で「本好き」があちらこちらにいることを実感できるのは、やはり嬉しいものであった。


おわりに


午後になると家族連れや学生たちが来て、また色々と本を買ってくれた。

思った以上にイベントがうまくいって、自分の本屋の売り上げても頗る好調だったので、終わってからも数日間は、軽い興奮状態だった。若者がフェスなんかに行く感覚に近いのだろうかと勝手に想像したりして、年甲斐もなくはしゃいでいたかもしれない。

これまでにも著書やネット記事など、いろいろなところで「一箱古本市は楽しい」ということが書かれていたのを読んで知ってはいたが、そこに書かれていた内容以上に楽しい体験だった。絶対またやってみたいし、他の人にも心からオススメしたい。


当日買った本。見ているだけで、楽しい気分になる。

特に遠方から来られている店主さんを見て、逆に自分がその立場になったら、さらに楽しいんではないかなと強く思った。機会があれば、少し遠くのイベントに店主として遠征してみようかなと密かに考えている。

最後に、実は前回の記事がきっかけで作った缶バッジが実はかなり好評だった。もし今度店を出すときには、もっとたくさん作って、買った人に配ってみたい。


学生が作った看板。力作なので貰ってきました。
もうしばらく研究室に置いておきます。

  

 © 小笠原 拓 2015