どんな世界が待っているのか…
いざ行かん 尾道
大学3年生、20歳の夏。
この響きだけで、どこか素敵な場所へ出かけたいような気持ちになるのではないか。
そこでこの夏、私は高校生からの友人と2人で尾道に行ってきた。私は尾道へ行くのはこれが初めてであり、友人も広島市内に住んでいるものの幼い頃に家族と一度行ったきりだという。レトロなものが大好きな私たちにとって尾道は憧れの地であった。古いものを残しながらも、新しい町おこしの力が融合した町である。何度も電話で作戦会議をし、入念に下調べを行い、旅のしおりを作り、気合を入れて尾道へ向かった。
海が見える街並み
旅の目玉は…?
尾道に行くにあたって、友人が絶対に行きたいと言っていた場所があった。それが古本屋「弐拾㏈(にじゅうでしべる)」である。この古本屋は、平日23時から27時、休日11時から19時の間のみ営業している。そのため、基本的には夜、しかも23時を過ぎてから行くしかない。私たちが尾道に行ったのは平日だったため、夜になったら絶対に行くと決めていた。
友人は、彼女が通っている大学の先生の紹介によって弐拾dBを知ったそうだ。その話を聞き、本が好きな私は興味をひかれた。その日は2人でワクワクしながら23時を待っていた。
レトロを十分に味わいました
まさかの事件発生!?
お昼に尾道に着き、行きたかった店を回り、私たちは順調な観光を楽しんでいた。日も暮れ始め、街並みを楽しみながら予約していた夜ご飯の店に向かっていた。と、ここで、私たちは1人のおばあさんに出会った。ただのおばあさんではない。なんとそのおばあさんはコンビニの前でリアカーとともに倒れ込んでいるのだ。
慌てて駆け寄り、大丈夫ですか!?と声をかける。支えてもなかなか立ち上がることもできず、大丈夫な様子には全く見えなかった。なんとかおばあさんは震えながら立ち上がり、私たちを見上げた。そしておもむろに財布を取り出し、1000円札を差し出してきた。出会って初めて口が動く。
「た、たばこを2つ買ってきておくれ…」
………?????
私たちは言葉を失った。倒れ込んでいたおばあさん。立ち上がれなかったおばあさん。苦しそうにしていたおばあさん…。
「ウエストのブルーで頼むよ…ライターも1つ…」
ご丁寧に銘柄指定まで…。病気で苦しかったわけではなかったらしい。(良かった)結局私たちはコンビニでウエストのブルーを2つとライターを1つ買った。お会計は1060円だった。
タバコを手にしたときのおばあさんの笑顔を忘れません
まさかの展開
これで事件は終わらなかった。訪れたその居酒屋で友人がつぶれてしまった。初めて飲んだ日本酒の美味しさに感動し、思いのままに飲んでしまったのである。
確かに美味しかった!
このままでは一番の目的の弐拾dBに行くことができない。なんとか友人を連れて宿であるゲストハウスに帰り、どうしようかと悩んでいた。
その時ゲストハウスの共有スペースに行くと、同年代か私より少し年上の女の子たちが集まっていた。全員初対面であるが、なんとなく会話が始まり、盛り上がってきたところで、1人があの、と口を開く。
「本、興味ありませんか?私、今から本屋に行くんですけど、一緒にどうですか?」
私は確信した。間違いなく弐拾dBだと。そして的中した。
ただ、友人の存在が私を悩ませた。一緒に行こうと約束していたのに、私だけ行ってもいいのだろうか。先ほどベッドに押し込んだ友人に声をかけるが起きる気配は全くなかった。悩んだ末の決断。本当にごめん。私、行ってきます。心の中で唱え、私は出会った方々と弐拾dBへ向かうことにした。
ゲストハウスにも図書館が!
到着
誘ってくれた女の子たちとは、初めてめて出会ったにも関わらずすぐに打ち解け、しゃべりながら目的地へ向かった。誘ってくれた方は以前から弐拾dBの店主、藤井基二さんと交流があるそうで、今日は取材をするのだと言っていた。
到着すると、ぴったり23時。ちょうど藤井さんが店の看板を出していた。インスタグラムでしか見たことがなかった憧れの藤井さんを目の前にし、一気に緊張した(ちゃんと予習してきたのだ!)。夜、インスタグラムで詩の朗読をしてくれる藤井さんが目の前にいるのである。存在しているのである。私はドキドキしながら店の扉を開けた。
ちゃんと存在している!!
病院を改装したレトロな店舗には、ずらっと古本が並んでいた。一歩足を踏み入れただけで伝わってくる古本の温度感が気持ちいい。迎え入れてくれた藤井に挨拶をし、しばらく店内を見て回った。今日の自分と合う本に出会えないかと、本を手に取っては読んでいた。
やはり、人の手の跡が残る古本は素敵だ。よく折れたページや鉛筆の跡が残るページを見ると、そこでどんなことを考えていたのか想像してしまう。選書も良く、素敵な本がたくさんあった。その本屋の中でも土足スペースと靴を脱ぐスペースがあり、どういう意味があるのか想像してワクワクした。
その中で吸い込まれるようにして読み進めてしまったのが、原民喜の詩集である。心が落ち着くような活字に癒された。今日一日のドタバタを忘れるようだった。購入することを決め、藤井さんのもとへ向かった。お話しできたらいいなと思いながら……。
しかし、藤井さんは常連さんらしき人と盛り上がっていた。この日はとりわけお客さんが多く、待っても話ができるタイミングはなさそうだった。期待していたので少し残念ではあったが、本を購入し、私は店を後にした。
素敵なブックカバーをつけていただいた
再訪問
ひとり歩いて帰り、宿の扉をひくと、そこにはまさかの眠そうな顔で立つ友人の姿があった。
「どこ行ってたの?弐拾dB行こうよ」
…え、大丈夫なの?歩ける??そして私、今ちょうど行ってきた……。
友人に確認すると、歩けるし、大丈夫とのことだった。意識もはっきりしているとなぜか自信ありげだった。心配だったが約束していたことなので、私は友人と再び弐拾dBに向かった。私が友人を置いて勝手に行ったことには怒っていなかった。
再び扉を開けるとお客さんはほとんどいなかった。案内してくれた取材に来たお姉さんがいるだけであった。藤井さんはまた来てくれたの?とびっくりしていた。私を覚えてくれてる…!!感動した。隣の友人を見ると、藤井さん存在している…!と彼女も感動していた。先ほどの私はこう見えていたのかと思った。
お客さんがいないということは話すチャンスである。勇気を出して話しかけ、鳥取から来たことやとても楽しみにしていたことを伝えた。すると、なんと、藤井さんのお姉さんが鳥取大学地域学部出身で現在小学校教員として働いていることが判明(!)。まさかの奇跡に一気に距離感が近くなる。共通の話題が次々に生まれ、話はずいぶんと盛り上がった。鳥取は人間同士の距離感がちょうどよく、暮らしていて落ち着くとのことだった。また、松崎にある古本屋、「汽水空港」の話もできた。
店主 藤井基二さん
藤井さんはインスタグラムから想像していたよりもおしゃべりな方で、本屋とお客さんの関係性の話から、今までのお客さんの話、古本の良さなど語ってくださった。履物を脱ぐスペースでは、お客さんが靴を揃える人かどうか見ているらしかった。また。私たちが学生ということもあり、彼の学生時代の話もしてくださった。
「俺、持ちネタあるんだよね」と、得意げに披露してくださったのは、ショートコント「大学のテニスサークルの副部長」である。藤井さんがテニスサークルの副部長になりきり、ひとり芝居をしてくださった。ここに詳細を書きたいところだが、文字にするうちに恥ずかしくなってきたので現地で生の芝居を見ることをお勧めする。あの夜はすごく面白く感じた気がするのだが…。
満たされた夜
そうして、気付けば26時をまわっていた。古本屋に行くことは何度かあったが、店主とここまで話し込むことは初めての経験だった。店主藤井さんの考えや人生経験を聞くことができ、非常に充実した夜になった。2回目の参戦があってこそなので、数々の事件と友人に感謝しなければいけない。最後に記念撮影をお願いした。
弐拾dBさん、ありがとうございました。またお邪魔します。
楽しい夜をありがとうございました。