鳥取に来る前、私は新しい生活に不安を感じていた。いかに早く環境に慣れるか。とりわけ一人暮らしが本当に心配だった。
大学が決まった時期が遅かったこともあって、家を探し始めた頃には、家賃や立地の条件が良いと考えていた物件は実際には、ほとんど埋まっていた。正直、「もうちょい早く決まってたらなあ……」とかなりがっかりした。周りからは、「絶対いろんな物件を見た方がいい」と言われており、私自身も最初はそうするつもりだった。
そんな中で最初に不動産屋の人に紹介されたのが、窓から湖山池が見える今の家だった。初めて家を見に行った時、窓の外には、池の色とは思えないほど鮮やかな青色をした湖山池が広がっていた。光を受けて揺れる水面がとても印象的だった。
その景色を見た瞬間、「あ、ここにしよ」と思った。今考えると結構勢いで決めている。普通は何件か比較して、ここは収納が~、とか駅から何分〜、とか慎重に考えるだろうけど、私はこの物件以外を見ることなく決めてしまった。でもその時はなぜか、もうここ以外ない気がした。不動産屋の人も一緒に来てくれた両親もその決断の早さに驚いていた。
実際に住み始めてからも、「スーパーもうちょっと近かったらな」とか、「駅近の方が便利やったわ。絶対」とかいろいろ思うことはある。それでも、朝カーテンを開けて湖山池が見えると、不思議と気持ちが落ち着く。少し心に余裕ができる感覚になるのだ。夕方には空の色が水面に映って、ぼんやり眺めているうちに、いつの間にか時間が過ぎていることもある。「あ……今日なんもしてない」と焦る日もあるが、それ込みで結構気に入っている。
過ごしやすい季節には湖山池のほとりまで行って、景色を見ながらお弁当を食べたり、編み物をしたりもする。静かな場所ではあるが、全然退屈ではなくて、水の音や風をぼんやりと感じながら過ごしている時間が私はとても好きだ。あと、犬の散歩をしているおばちゃんに声を掛けられることもある。鳥取でもこんな人おるんだなあって最初は少し驚いたが、そういう距離感にも心地よさを感じている。
湖山池は毎日ちょっとずつ雰囲気が違う。晴れている日は広々として明るく見え、雨の日は静かでどこか朧げな雰囲気になる。風が強い日は水面が大きく揺れていて、「今日は機嫌悪そうやな」とか勝手に思ったりもする。別に何か特別なことがあるわけじゃないけど、毎日見ていると自然と生活の一部になっている感じがする。
私は昔から、新しい環境に慣れるまでかなり時間がかかるタイプだ。新しい場所や人にすぐ馴染める方ではなく、最初はどうしても緊張してしまう。でも、湖山池の景色を見ていると、不思議と早く慣れなきゃと焦る気持ちが少し和らいでいった。何か特別なことをしてくれるわけではないのに、静かな景色やゆっくりした空気が、自分をそのまま包み込んでくれているように感じられた。だからこそ、少しずつではあるけれど、鳥取での生活を自分のペースで受け入れていけたのだと思う。
私は地元のほかにこの一年間ほどの鳥取の生活しかしたことがないが、鳥取の風土は割と自分に合っているように感じる。天気が悪い日が多くて、億劫になる日も少なくないけれど、時間がゆっくり流れている感覚とか、人との距離感とか、静かな空気感がちょうどいい。
最初は部屋を直感で選び過ぎたんじゃないかと思う部分もあった。でも今は、この家を選んでよかったと思っている。むしろ、いろんな物件を見ていたら逆に決められなくなっていた気もする。直感だけで決めた部屋だが、今の生活にはかなり満足している。結果的に自分に合った居場所を見つけられたのだ。そして何よりも、帰ってきて湖山池が見えると、なんだかんだいい場所選んだなと実感するのである。

