はじめに
学校・部活・バイトなどの帰り道、気持ちよく歌っていたら向かいから人が来てすれ違うときに一瞬黙るということ、だれもが経験したことがあると思う。
もちろん私も何度もあるし、死角から急に人が出てきてとっさに黙ったことも数えきれない。この一瞬の沈黙はごく自然なことだと思っており、あえて深く考えたことはなかったが、ある日のバイト帰りにその考えが揺らぐ出来事があった。
いつものように気持ちよく歌っていたら、向かいからおじいさんが演歌を口ずさみながら歩いて来たのに気が付いた。私はとっさに歌うのをやめたが、おじいさんはすれ違う瞬間も気にする様子もなく歌い続けていた。その姿を見て私は衝撃を受けたとともに敗北感を味わった。
「人がいるなら歌わない」が常識だったが、よく考えたらその人に迷惑をかけているわけでもないし、ただ一瞬恥ずかしい思いをするだけならおじいさんのように気にせず歌いつづけられた方が幸せなんじゃないか...?と疑問を持った。そこで、実際にやってみることにした。
1回目の挑戦
歌っていて一番気持ち良く、歩行者に出会えそうな夜10時ごろに家を出る。イヤホンもつけて、歌う準備は万端だ。
意気揚々と家を出る。
とりあえず海に続く道を歩いてみる。夜の国道9号の信号を渡って進んでいくが、だれにもすれ違う気配はない。
誰もいない…
その後2、30分ほど歩いたが、すれ違ったのは自転車をこいだ3人組だけだった。さすがに3人を前にカラオケする勇気は持てなかった。
自転車3人組!
次の日、空港の辺りを歩いてみる。前から人が…来た!ちょうど流れていた、超ときめき♡宣伝部の「最上級にかわいいの」を熱唱してやろうと思ったが…
人影発見!
まってめちゃくちゃ恥ずかしい!!相手の目線が、せいぜい「変な奴いたな」くらいの認識なのは分かってるけども!!熱唱なんてできないよこれ!!
後姿を無言で見送る…
結局そのまま見送ってしまった…無念。その後何人かすれ違ったが、いずれも恥ずかしくて出来なかった。
リベンジ
家に帰って反省会。できるだろうと思っていたが、いざ歌おうとすると恥ずかしさが勝ってしまうことが分かった。恥ずかしさを克服するためには…はっ💡。
気分は芸能人!
そうだ、お互い顔が見えるからダメなんだ。それならこっちの顔が分からないように変装すればいいじゃないか。ということで真夏の夜にも関わらず帽子とマスク、メガネを装備。運の良いことに小雨が降っていたため、傘という強いアイテムも追加。神様は私に味方している。気持ちが高まるままに外に出る。気分はさながら芸能人である。するとついにその時が…
今度こそ歌ってやる!
謎の緊張と暑さで汗ダラダラの中、人が来た。私は歌う…歌うぞ…
イヤフォンから流れてきた音楽はFRUITS ZIPPERの「かがみ」。ここまで武装しても尚声は少し小さくなってしまったが、しっかり相手に聞こえるくらいの声量で歌ってやった。達成感と抑えきれない羞恥心を感じながら、胸いっぱいで帰宅した。
ただ振り返ってみると真夏の夜に帽子・マスク・メガネで「あれ可愛くなりすぎちゃったかも♪」なんて冗談がキツすぎる。どこからどう見てもただの不審者であった…
まとめ
いざやってみると想像以上に人目が気になってしまい、気持ちよく歌うことはできなかった。武装しても尚勇気と羞恥心が必要だったため、私はまだまだ演歌のおじいさんの域には届かないことが分かった。しかし、曲を選べばもう少し心を平穏に保ったまま歌うことができたかもしれない。検討の余地はありそうな気がする。今度は、もう少し羞恥心を感じない曲でチャレンジしてみたい!