私が恋した純喫茶(田中心璃)
公開日:2022年6月22日


昭和の香りがタマラナイ…

私の癒し 純喫茶

昭和遺産と聞いて何を想像するだろうか。古いもの、懐かしいもの、時代遅れなもの…。私の母は「昭和が遺産?」と不思議がっていた。人によってどう捉えるかは違うだろうが、少なくとも私にとっては、昭和はキラキラとした遺産であり、古いものであるがある意味で新しく新鮮なものである。

その中でもとりわけ、純喫茶という存在に私はゾッコンなのだ。純喫茶への愛が溢れすぎて、鳥取要素は少なくなる可能性大だが、この場を借りて私の純喫茶への思いを語らせていただきたい。


純喫茶とは

そもそも純喫茶とは何者なのだろうか。Wikipediaによると、純喫茶とは「酒類を扱わない、純粋な喫茶店のこと。酒類を扱い、女給(ホステス)による接客を伴う特殊喫茶(カフェー)に対してのレトロニム的な呼称」だという。純喫茶愛好家を名乗っておきながら、この度初めて調べた。正直とても驚いた。「特殊喫茶」(この言葉も初めて知った)に対してつけられた名前だったとは。そして「カフェー」の定義が現在とは全く異なっていることにも驚いた。


パンケーキ?否、ホットケーキだと強く言いたい!

私の中では、純喫茶の定義をはっきりと決めているわけではないが、「昭和に生まれ、昭和を残しながら長年の間多くの人に愛され続けてきたお店」だと考えている。ずっとその場に存在し続け、店主とお客さんで守られているお店。私はそんな純喫茶が好きだ。


恋に理由なんていらない!

ところで、私はなぜ古いものを好きになり、純喫茶に惹かれたのだろうか。正直に言わせてもらうと、自分でも分からない。好きになった理由やきっかけがさっぱり思い浮かばないのである。純喫茶に命を助けられた!とか、ある純喫茶に一目ぼれ!とか、印象強いエピソードが特にあるわけではない。もしかしたら前世で純喫茶に救われたのかも…。


通っていた純喫茶のお気に入りメニュー

ただ、気付いたときには昭和が漂う古いものが大好きであった。古いお土産物屋さんで母に眉をひそめられながら骨董品を買い漁ったり、祖父母の家の片づけを手伝うという名目で古い食器やマッチ箱を失敬したりしていた。(おばあちゃんごめんなさいm(__)m)

高校生の時、部活動がない日の放課後に寄り道をするのは決まった純喫茶であった。お気に入りの純喫茶を訪れ、お気に入りの席に座り、好きな飲み物を口にすれば、学校生活の疲れが取れるように感じた。きっと私はその空間をまるまる愛しているのだと思う。


純喫茶を彩るメニューたち

最高の居心地を実現する純喫茶。それは何で構成されているのだろう。

まず、喫茶というだけあって、素晴らしいメニューが癒しを与えてくれることは間違いない。純喫茶のメニューと聞いて思い浮かぶもの。マスターが丁寧に淹れてくれるコーヒー。少し焦げたケチャップの香りと銀色のお皿がお決まりのナポリタン。ひとつだけ乗せられたバターがしっかりしみ込んだ丸くてふかふかのホットケーキ。宝石のように色とりどりのフルーツに囲まれた黄金色のプリンが輝くプリンアラモード…。言い出したらきりがない!


東京のプリンアラモード 鳥取でプリンアラモードはレアである(本記事の鳥取要素①)

その中でも特に、私はクリームソーダが大好きである。先ほど「お気に入りの飲み物」と書いたが、それはまさにクリームソーダである。あの体に悪そうな緑色、人工的な甘み、グラスの中で輝くソーダ水、アイスクリームの丸いフォルム、どこを切り取っても昭和が生み出した芸術作品と言える。


舌を喜ばせるか、体を泣かせるか 過剰摂取には気を付けたい

アイスクリームが炭酸と反応してシャリシャリになった部分など、たまらなく美味しい。私の母も初めは「ただのかき氷シロップでしょ(笑)」と鼻で笑っていたが、一口飲めば「この味!」とはしゃいでいた。かわいくておいしくて人を幸せにしてくれる魔法の飲み物である。


フルーツサンドとクリームソーダは鉄板の組み合わせ!


昭和テイストな外観や内装も魅力的!

外観や内装などの要素も最高の空間を支えているに違いない。純喫茶はそれらが美しいことも特徴的である。外観で言えば、装飾テントひとつをとっても、それぞれ個性が出ており、惚れ惚れと見つめてしまう。看板やそのフォントも一つとして同じものはなく、お気に入りの純喫茶の看板は思い出すだけでにやけてしまう。食品サンプルがディスプレイされているとよりテンションが上がる。


鳥取にもかわいい純喫茶が! 松崎のアスコット(本記事の鳥取要素②)


そして、内装を味わうことを抜きにしては純喫茶を楽しむことはできないだろう。完全オーダーメイドで唯一無二の建物は心躍らせるものである。扉を開ければ、今では再現できないであろうゴージャスなインテリアが空間を彩っている。


レトロな外観はもちろん、名前もグッとくる

ノスタルジックな照明や、きれいに整列したコーヒーカップ、高級感あふれる赤いベロアの椅子は座り心地も抜群だ。初めてベロアのソファに腰かけたときはアドレナリンが噴き出した。似ているようで同じものはない特徴的な床の柄にはついうっとりしてしまう。「#足の下のステキな床」というハッシュタグが存在するほど、純喫茶における大切な注目ポイントである。


赤と白のツートンカラーの椅子が素敵!

古いものが大好きな私にとって、最高の空間であると言える。純喫茶の内装について書き始めて気付いたが、もしかすると純喫茶は、昭和の博物館なのかもしれない。純喫茶に足を踏み入れれば生きた昭和を存分に楽しむことができる。古き良きものが集結した博物館。ぴったりの代名詞…!たくさんの要素が重なり合って、その店だけの空間が出来上がっている。最高の居心地が実現されたその素敵な空間に身を収めればどんな時でも心を落ち着かせることができるのではないだろうか。


今時のカフェにはないゴージャスな外観もラブリー


最大の魅力は人

とはいえ、純喫茶の最大の魅力は、そこにいる人にあると考えている。マスターや常連さんとのちょうどよい距離感でその良い居心地は保たれているのではないか。マスターはいつ訪れてもあたたかく迎え入れてくれ、こちらに干渉しすぎることもなく、かといってぶっきらぼうになることもなく接客してくれる。

その場にいるお客さんも自分の時間を楽しんでおり、いい意味で他のお客さんを気にしていない。静かな空間でそれぞれが思い思いの時間を過ごしている。例外的に、干渉してくる常連さんやマスターもいることもあるが…。(こういった純喫茶は関西圏の小さな店に多いと考察)


この内装の感じは、いつ頃流の流行なのだろう?1970年代?それとも80年代?

ちなみに鳥取の純喫茶を訪問する中では、このようなお店はめったに出会わない。こちらが話しかけたときに限り、控えめな会話が存在する程度である。それもまた、気分良く純喫茶での時間を過ごすことができるのだ。(本記事の鳥取要素③)


純喫茶の素晴らしさを振り返り、改めてその存在に感謝したいと思った。古いのになぜか惹かれてしまう純喫茶。その空間の魅力は確認できたが、好きな理由は結局わからない。しかしそれでよいのではないか。これからも昭和遺産・純喫茶に癒されながら生きていきたい。


 © 小笠原 拓 2015