一体何が始まるのか…
何気ない休日に始まる物語…
本箱を明るいパブの机の上において、ガチャリとその蓋を開いた。透明な本箱の中からは整列する17冊の本が覗く。私は本の間からルーズリーフで作った看板を取り出して、本箱の横に置いた。看板にはボールペンで文字が書かれている「本でお話、しませんか?」と。私は、誰かを待っている。今夜、共に本について語り合う誰かを。
…こんな出だしで始まる物語なんて、なかなかいいと思いませんか?実はこの文章は私の休日の夜を切り取った一場面なのです。
本箱活動とは?
2020年2月現在、私は鳥取で「本箱の人」と称し、「本箱活動」を行っています。「本箱活動」とは、本を入れた透明なプラスチックケースと「本でお話、しませんか?」と書かれたルーズリーフでできた看板をパブや喫茶店に置いて、私に話しかけてくれる人を待ち、話しかけてくれた人と本を通じてお話をする、というものです。以下の写真は実際に本箱と看板を置いている様子です。
こうしてまだ見ぬ人を待ちます。
この活動を通して、たくさんの出会いがありました。旅人、園芸家、画家、写真愛好家、学芸員などなど、出会った方の属性も様々です。何人かの方とは今でも付き合いが続いています。
これから私はこの『机上の本箱』シリーズの中で、本箱活動を通じてこれから出会う方々について話していきたいと思いますが、今日はイントロとして本箱と中に入っている本についてお話しようと思います。
私の本箱とその中身
まず手短に外観から。本箱のケースは100均で売っていたプラスチックケースです。もう1年近く使っていますが壊れません。恐るべし100均の力。透明な箱を使っているのは100均に売っていた手ごろな箱が透明だったからという理由ですが、現在は透明であることによって周りの人から本箱の存在を気付かれやすいという恩恵を受けています。
100均の力は偉大です。
次は中身を。以下の写真は2020年2月24日現在の本箱の中を写したものです。菅原孝標女著の『更級日記』やシェイクスピア著の『マクベス』などの古典文学で多くが占められていますが、中には西原理恵子著の『いけちゃんとぼく』や漢 a.k.a GAMI著の『ヒップホップ・ドリーム』などの割と最近の本も入っています。『マクベス』が逆さまになっているのは外から表紙が見えるようにするためです。
本箱には人柄が現れるという話もありますが…
本のジャンルも雑多です。というのも私は本を主に古本屋(特に鳥取市吉方町2丁目311にある『邯鄲堂』という古本屋)で買うのですが、購入する基準が「古典で安い」または「最近の本で面白い」なので、気づけば雑多なジャンルの本が集まってくるわけです。
本を使って見知らぬ人と話す楽しみ
本箱の中の本のラインナップにはテーマがあります。現在のテーマはざっくり言うと「人間の有様」と「言葉って何?」です(他にも細かいテーマが無数にありますが、それはおいおいお話します)例えば『歎異抄』や『まっぷたつの子爵』などは人間の有様について、『詩歌折々の話』や『ヒップホップ・ドリーム』などは言葉に関する本です(実際にはどの本も越境的に様々なテーマに関わってくるのですが)。
しかし、テーマがあるといってもそのテーマを一方的に話すのではなく、相手の興味がありそうなテーマを探して、それに関連する本を本箱から探してお話しています(失敗することも度々ありますが…)。
明日はどんな人と本の話ができるだろう…
本箱の中の本は自分が自分の言葉で語れるものしか入っていません。 『自分の言葉で語る』ということは、自分の肉体的、または精神的な経験に基づいた事を語るということだと思っています。私は、『マクベス』の中に不安に陥りがちな私を見出し、『まっぷたつの子爵』の中に善悪混然とした中途半端な存在としての私を見出すのです。
これから『机上の本箱』シリーズでは、これから出会う様々な人との本を通じた、別な言い方をすれば『本による経験』を通じたお話の一部分を紹介していくことになります。皆さんに私の経験した会話を本の小話と共に提供できればと思います。よろしくお願いします!
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《本日登場した本》
・『更級日記』菅原孝標女著、1060年頃成立、1930年に岩波書店より発行。
・『マクベス』シェイクスピア著、福田恆存訳、1606年頃執筆、1969年に新潮社より発行。
・『いけちゃんとぼく』西原理恵子著、2011年に角川書店より発行。
・『ヒップホップ・ドリーム』漢 a.k.a GAMI著2019年に河出書房新社より発行。
・『歎異抄』野間宏著、1986年に筑摩書房より発行。
・『まっぷたつの子爵』カルビィーノ著、1952年出版、2017年に岩波書店より発行。
・『詩歌折々の話』大岡信著、1980年に講談社より発行。